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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(し)6号 決定 1977年3月04日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は所論の趣旨の判断を示したものではないことが明らかであるから、前提を欠き、その余は、憲法一一条違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四三三条の抗告理由にあたらない。

なお、所論にかんがみ職権をもつて調査するのに、申立人は、昭和四八年一二月二〇日広島地方裁判所において恐喝罪により懲役一年、三年間執行猶予、保護観察付の判決の宣告を受け、右判決は昭和四九年一月五日確定したのであるが、昭和五一年一二月二四日広島地方裁判所において刑法二六条ノ二第二号により右刑の執行猶予の言渡を取り消されたこと、申立人がこれを不服として同月二七日即時抗告を申し立てたところ、広島高等裁判所は、同月二八日これを棄却する旨の原決定をし、同裁判所の書記官は、申立人に対する原決定謄本の送達を同日廷吏により行おうとしたが、申立人方全戸不在により送達不能となつたため、同日広島地方裁判所の書記官に送達事務の取扱を嘱託したこと、よつて同裁判所の書記官が執行官により同日二回、昭和五二年一月四日送達を行おうとしたが、いずれも申立人方全戸不在により送達不能となつたので、広島高等裁判所の書記官は、同日書留郵便に付してこれを申立人に対し発送したこと、が認められる。

そこで、本件即時抗告棄却決定謄本の申立人に対する送達の適否について考えるのに、刑訴法五四条は、書類の送達については、裁判所の規則に特別の定のある場合を除いては、民事訴訟に関する法令の規定を準用する旨規定し、刑事手続における郵便に付する送達(以下「付郵便送達」という。)については、刑訴規則六三条の規定があるところ、同条は、民訴法一七〇条に対してのみの特別規定と解され、付郵便送達を刑訴規則六二条により住居等の届出の義務がある者がその届出をしない場合に限定する趣旨のものとは解されず、また、裁判所の規則には刑訴規則六三条のほかに刑事手続における付郵便送達に関する特別規定は存しないのであるから、民訴法一七一条の規定によつて送達をすることができない場合に付郵便送達をしうることを規定している同法一七二条は、刑訴法五四条により刑事手続における書類の送達について準用されるものと解するのが、相当である。

してみると、前記事実関係のもとで原審の書記官がした本件付郵便送達は適法であるというべく、民訴法一七三条により原決定謄本は執行猶予期間内である前記昭和五二年一月四日に申立人に対し送達があつたものとみなされて、同日、本件執行猶予取消の効果が発生したものというべきである(最高裁昭和四〇年(し)第二一号同年九月八日大法廷決定・刑集一九巻六号六三六頁参照)。

よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(江里口清雄 天野武一 高辻正己 服部高顕 環昌一)

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